こんにちは、南川歯科クリニック院長の佐野です。
歯を失ってしまった際の治療法の一つとして「入れ歯(義歯)」があります。今回は、入れ歯をご検討中の方や、ご自身の入れ歯についてもっと知りたいという方のために、入れ歯の種類や特徴、製作プロセスについて詳しく解説していきます。
入れ歯が必要になるのはどんな時?
例えば、下の奥歯(専門的には第一大臼歯、第二大臼歯)が2本連続でなくなってしまった場合、噛む機能を回復させるために部分入れ歯が選択肢となります。これは、入れ歯を考え始めるきっかけとして非常に多いケースです。
もし失った歯が1本で、その両隣に健康な歯が残っている場合は、保険診療でもブリッジという、両隣の歯を支えにして橋渡しをする方法で治せることもあります。
入れ歯の仕組みと設計の考え方
入れ歯は、失った歯の機能を補い、再び噛めるようにするための装置です。その噛む力は、残っているご自身の歯と、歯を失った部分の歯ぐき(顎堤と言います)で支えます。
お口の状態は一人ひとり異なるため、入れ歯の設計も様々です。奥歯で噛む力は非常に強いので、その力に耐えられるよう、また、残っている歯に過度な負担がかからないように設計を工夫します。
一般的な設計例: 失った歯の反対側まで金属のバーを伸ばし、残っている歯にバネ(クラスプ)をかけて安定させる方法はよく用いられます。
設計における配慮: 下あごには舌があるため、入れ歯の厚みによる違和感や発音がしにくくなることがあります。その場合は、患者さまの噛む力や残っている歯の状態を慎重に評価した上で、入れ歯をできるだけ小さく薄く設計することも可能です。ただし、小さくすると支える歯への負担が増すリスクもあるため、専門的な判断が不可欠です。
入れ歯を支える歯の重要性:骨の量が鍵
入れ歯を安定させるためには、バネをかける歯(支台歯)がどれだけしっかりしているかが重要です。その判断基準となるのが、歯を支えている**「骨の量」**です。
歯の根っこが顎の骨に埋まっている部分が短いと、歯はぐらつきやすく、横からの力や噛む力に対して弱くなります。そのような歯には、できるだけ負担がかからないよう、バネをかけない設計にしたり、他の歯や歯ぐきにも力を分散させるような工夫をします。
入れ歯の製作期間はどれくらい?
「入れ歯はどれくらいの期間でできますか?」というご質問をよくいただきます。これは、患者様のお口の状態によって大きく異なります。
- 最短の場合:約2週間 残っている歯が多く、噛み合わせが安定している場合は、1回目の型取りと噛み合わせの記録を同時に行い、2回目(約2週間後)に入れ歯が完成することもあります。
- 一般的な場合:約1ヶ月 多くの場合、特に見た目が重要な前歯の入れ歯や、より精密な適合・噛み合わせを求める場合は、「試適(してき)」というステップを踏みます。これは、ワックスで作った仮の入れ歯を実際にお口に入れてみて、見た目や適合、噛み合わせを確認する工程です。 型取り → (必要であれば噛み合わせの記録用装置製作・記録)→ 試適 → 完成 という流れになり、各ステップに約1-2週間ずつかかるとすると、トータルで約1-2ヶ月が目安となります。
- より精密な調整が必要な場合:2ヶ月-半年以上 噛み合わせが非常に不安定な場合(例:上の歯がほとんどなく、下の歯は全部残っているなど)は、まず「咬合床(こうごうしょう)」という装置を使って正確な顎の位置や噛み合わせを記録するステップが必要になります。さらに精密さを追求する場合は、もっと多くのステップを踏むこともあります。
当院では、一時的にでも「噛めない」期間を短くしたいというご希望がない限りは、より適合の良い入れ歯を作るために、試適の工程を挟むことを基本としています。
特殊な入れ歯の選択肢:「コーヌステレスコープ義歯」
より高度な技術を用いた入れ歯の一つに「コーヌステレスコープ義歯」があります。
これは、残っている歯に円錐状(角度のついた台形のような形)の金属冠(内冠)を被せ、入れ歯本体にその内冠にぴったりとはまり込む金属冠(外冠)を組み込んだものです。茶筒の蓋が本体にすぽっとはまるように、摩擦力で入れ歯を維持します。
メリット:
- 審美性: 入れ歯を支えるための金属のバネが見えないため、自然な見た目になります。
- 清掃性: 取り外して内冠(歯に被せた土台)も清掃できるため、歯磨きがしやすく衛生的です。
- 歯への優しさ: バネのように歯を引っ張り倒す力がかかりにくいため、歯への負担が少ないです。多少弱った歯でも支台歯として利用できる場合があります。
- トラブル対応力: 万が一、支えている歯が将来的にダメになってしまっても、入れ歯の内面を修理することで、そのまま使い続けられることが多いです。
デメリット:
- 歯を削る量が多い: 内冠を被せるため、健康な歯でも比較的大きく削る必要があります。過去に治療歴のない健康な歯には、積極的にはお勧めしにくい場合があります。ただし、お口全体の状況から、他の歯を保護するためにも削って被せた方が良いと判断される場合は選択肢となります。
- 費用が高額: 精密な内冠・外冠の製作には、非常に高度な歯科技工士の技術が必要です。また、使用する金属(白金加金など)も高価なため、保険外診療となり、費用は高額になります。
その他の選択肢
- インプラントオーバーデンチャー: 噛む力が非常に強い方や、入れ歯が沈み込んで痛みを感じやすい方の場合、顎の骨に数本のインプラントを埋め込み、それを土台として入れ歯を安定させる方法もあります。入れ歯の沈み込みを抑え、よりしっかりと噛めるようになります。
- インプラント治療: 「どうしても取り外し式の入れ歯は使いたくない」「見た目が気になる」「自分の歯のようにしっかり噛みたい」という強いご希望がある場合は、インプラント治療が有効な選択肢となります。特に下あごの奥歯は骨がしっかりしていることが多く、インプラントに適しているケースが多いです。
まとめ
入れ歯には、保険適用のものから保険外の特殊なものまで、様々な種類と設計があります。どの入れ歯が最適かは、患者様のお口の状態、残っている歯の健康度、ライフスタイル、そしてご予算や審美的なご希望などによって異なります。
当院では、患者様一人ひとりの状況を丁寧に診査し、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを十分にご説明した上で、最適な治療計画を一緒に考えさせていただきます。入れ歯に関するお悩みや疑問がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。